東日本大震災に関連した「声」

大震災から農作業の復旧・復興へ

石川文武(元・(社)日本農業機械化協会)

 あの3月11白からすでに4か月が過ぎました.震源から遠い東京でもかつて経験したことのない大きな横揺れと長い時間でした.

 太平洋側の東北4県では地震と津波で市街地のみならず,農業用地や施設まで破壊されてしまいました.さらに,福島県では東京電力原子力発電所の破損に伴う「いつ帰ることができるのか」という人災までこうむってしまっています.

 原子力発電所事故に伴う長期の復旧には,農作業技術だけでは取り組めないことばかりと理解しています.科学的根拠の薄い「あり得ない事故」と発言するような原発推進グループからの被害者・地域への実のある補償と復旧支援がない限り福島県及び周辺地域の農業復旧は長期にわたり滞るとみています.

 前置きが長くなりましたが,原発事故の影響が少ない地域の農業復旧について学会員の立場から考えてみます.

 土地利用型農業では,津波による地盤低下対策と海水の滞留影響の克服が一番になるでしょう.塩分を薄めるためには上流部から淡水を流し込む必要がありますが,ダムやため池なども破壊されているようで十分な水量確保が困難なようです.少ない水で効率的な塩分除去の技術は過去の蓄積があるのでしょうか.また,作付できない圃場でも雑草はしぶとく生育します.作付再開に向けた雑草・病害虫防除も環境維持を考慮しながら進めなければなりませんが,これについては研究実績があるはずですから,現場への普及指導で対応できるでしょう.

 また,圃場整備を行うことで従来よりも効率的な農作業を可能にすることも考えられます.地権や水利権のこともあるでしょうが,今後の農業維持に向けた地域の方の一致した行動が必要です.

 施設利用型農業でも,水の確保が最も大切だと考えます.倒壊した施設の復旧には原資が必要ですが,十分とは言えないかもしれませんが,災害に伴う補助や交付金も充てることが可能でしょう.

 畜産では,飼料生産と飼養管理に支障が出ていると思われます.畜産と園芸生産は毎日の農作業となりますが,震災で作業ができなくなり,品質低下にもつながっています.自動化機器を導入していても,それらが十分に機能発揮しない場合もあるでしょう.しばらくはモニタリングに時間をあてなければならないでしょう.

 復興・復旧に向けて欠くことのできないものが農業機械です.修理すれば使えるもの,廃棄更新しなければならないもの,とそれらを仕分けし,季節に応じて使用可能にすることが基本になりますが,作業性能・能率よりも作業安全を最優先としてください.震災によって失われた時間を取り戻すことも大切ですが,安全を確保せずに取り組めば,どこで不必要な時間を奪われることになるかわかりません.備えあれば憂いなしの姿勢で機械の点検整備に取り組んでください.さらに,労務管理も今まで以上に慎重に行う必要があります.作業環境が震災以前と同じとは考えられません.

 また,多くの担い手が失われていますので,従来と同じ形態の農業は継続しにくいでしょう.法人化等を推進して,少ない人数,少ない農業機械で従来より効率的な農業とする取組も必要です.法人化に際しては,労災への加入も必須となります.

 以上現場の農業者へのメッセージのようなことを書きましたが,会員の皆さんがこの中から取り上げるべき課題を感じ取っていただければ幸いです.今まで,研究の実証として協力をいただいた現地農業者の方へ復旧・復興のお手伝いをする最大のチャンスです.会員の現地への支援が実れば新たな人間関係も生まれますし,新しい研究課題への農業者からの協力も得やすくなると信じています.

(農作業研究 第46巻第3号「声」より)

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