東日本大震災に関連した「声」
東日本大震災の復旧・復興にむけて
宮部芳照(元鹿児島大学教授)
まず,このたびの東日本大震災でお亡くなりになられた方々のご冥福と被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます.このたびの大震災により,日本は戦後最大の困難に直面している.地震と津波で大打撃を受けた被災地に追い打ちをかけるように放射性物質による被害が降りかかり,現地は戸惑いながらの復旧・復興に懸命に取り組んでいる.その一方で,個人ができることを探し,行動に移し,その支援の輪が地球規模の広がりをみせているのは心強い.
さて,そのなかで農業分野における被災の程度は風評被害を含み想像を絶する甚大なものがあることは周知のとおりである.そこで,われわれ日本農作業学会員が農業の復旧・復興にむけて,いま何ができるか,2,3の愚見を述べてみたい.まず,われわれが緊急に取り組むべき課題としては,震災から4ヶ月を経過したにもかかわらず依然として進んでいない農地の災害廃棄物(がれき)の早期撤去である.これには折しも夏休みに入ろうとするいま,農作業学会が音頭をとり,全国大学の農学部学生,教職員に対して年度内のがれき処理が困難な地域,或いは津波による浸水,地盤沈下によって農地を喪失した地域の農業生産基盤の応急的復旧作業を支援するボランティアチームを全国規模で募り,早期の営農再開にむけた支援活動を早急に行うこと.更には,農道,ため池の整備,集落の用・排水機場や用・排水路の整備を行った後の堆積土砂,ヘドロの排除,除塩作業の支援ボランティアも急を要する.また,カントリーエレベーターや農業倉庫,農産加工等の共同利用施設の復旧作業支援ボランティアや当面の所得確保にむけた秋冬期野菜(例えばキャベツ等)の導入に対する農作業ボランティアも必要になろう.これらの作業は緊急に取り組む課題であるが,東北各3県および各市町村のボランティアセンターとも緊密な連携をとりながら長期的かつ継続的な自己完結型ボランティアとして農学部学生,教職員に呼びかける必要がある.一方,放射性物質汚染の広がりが懸念されているいま,農作業ボランティアチームの現地入りは,放射性物質が農林畜産物にどのような影響を与えているのか正しい知識を身につけることで風評被害の軽減にもつながる.
つぎに,中・長期的な課題は農地,商工業地,居住地の地域全体の新たな土地利用計画を策定し,農地・施設の復興を進めていくこと.と同時にわれわれがその中で取り組むべき課題は企業,行政,関係団体,NPO,試験研究機関および大学がそれぞれ知恵を出し合い,「環境共生・自然エネルギ一分野」および「農業復興分野」に関する試験研究プロジェクトを立ち上げることである.これもできれば農作業学会が中心になって取り組むことが望ましい.具体的には環境・エネルギー分野では,①太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの農業への効率的システム導入,②発電燃料としてのがれき木材やその他バイオマス資源を含む再生可能エネルギーの採算ベースに乗った地域循環システムの開発,③災害時において必要な再生可能エネルギーの安定供給環境の構築等が考えられる.また,農業復興分野では,①被災農地の効率的除塩法・栽培管理技術の確立,②水稲を含む耐塩性作物,耐塩性品種の選定・開発と栽培技術等の確立,③園芸作物の耐塩性評価,④果菜類の養液栽培を含めた隔離床栽培技術の確立,⑤災害に強い快適な農村生活環境基盤の構築に関する研究プロジェクト等が想定される.
これらのプロジェク卜の推進がそれぞれの被災県で策定した東日本大震災復興基本計画を後押しし,全国から寄せられる様々な支援,参画を得ながら震災を乗り越え,長期的展望に立つ新産業創出にむけ,産官学連携によって取り組まれることを切に願うばかりである.
(農作業研究 第46巻第3号「声」より)