東日本大震災に関連した「声」

持続的農業創設への期待をこめて

遠藤織太郎(元筑波大学教授)

 東日本大震災で被害を受けた農地の再生,農業の復興は「持続的農業創設特区」として位置づけ,官民一体となって実現してほしいと願っている.

 今日,人類は食糧,資源,エネルギー,環境問題など,生存をかけた大きなジレンマに直面し,これを解決することが喫緊の課題となっている.これを解決する共通のテーマは「持続性」を地球規模で創出することである.

 このたびの大震災による津波被害農地面積は23,600haにもなり,これに原発事故に伴う放射能汚染農地面積を加えると,当面ガレキの処理,除塩,除染,基盤整備等を必要とする農地面積は,さらに増えるものとなろう.これらの地域では,まず農地としての再生をはかり,その上で新たなる農業の復興がすすめられることになる.その際,従来型の近代農法をベースにした農業の復興を考えるのではなく,この地域を食糧,生物資源,豊かな生態系,自然エネルギー,環境保全等に直接・間接的に寄与する「持続的農業創設特区」として位置づけ,取り組むことを提案したい.以下に私が考える「持続的農業」の特性と実現のための課題などについて述べてみたい.

1.近代化農法とその限界(持続性を失う)

 近代化農法は,工業社会が産出する農薬や化学肥料,機械や施設,コンクリート構築物,また一代雑種等を多量に駆使して,農業生産の拡大,省力化,所得向上等目指してきた.しかし,その反面で土壌の劣化,塩類集積,砂漠化,生態系破壊,耐性生物の出現,食の安全・安心の危機など顕在化させた.地球温暖化,異常気象誘発の一因ともなっている.その結果,農業の持続性が失われ,世界食糧生産の停滞ないし漸減傾向が明らかになった.一方で人口の爆発的増加傾向があり,世界規模での栄養不足,饑餓人口が増大している.

2.何故,持続的農業が必要なのか

 近代化農法転換の第一歩は,工業資材(農薬や化学肥料等)投入を可能な限り減らして,自然循環の仕組みを再生させることが基本となる.

 農地では自然,環境,生物多様性と共生する「持続的(生態的)農業」の創出が必要となる.これらの仕組みを核として,次の世代,未来に向けて食と農を安定してリレーする持続性を実現することになる.

3.持続的農業の創出,維持するためにやるべきこと

 持続的農業の本質を究め,その推進のための技術開発,調査研究を深化させる必要がある.これらの多くは当学会の研究領域と一致するものと考える.一方,持続的農業にあっては,持続性のもう一方の農業再生産の持続性が確保されねばならない.欧米などでは所得補償政策で対応している.日本においても早期の政策対応が期待される.持続的農業の担い手育成も大切だ.新規就農者の育成・参入,民間団体などの援農,協働参入等も容易にする施策整備も必要となる.

 かくて,持続的農業で生産される農産物は生産者と消費者がつくる「地産地消」マーケットで流通し,顔の見える信頼関係の中で価格形成がなされ,食の安全・安心が確保されることになる.その上で,日本古来の「もったいない」の思想を大切にした食や農,自然や環境,生物多様性の価値が再評価され,食文化やライフスタイルを見直す価値観の啓発が進むことが望まれる.

 最後に,調査研究面では,まず持続性を内在する技術の確立,その体系化・システム化を進め,その上で持続的農業における営農の合理的方策を追求したいものである.

(農作業研究 第46巻第4号「声」より)

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