No.39 二つの好機が到来
九州支部長 中司 敬
九州支部長農学関連分野ではいくつもの伝統ある学会が会員の減少に苦慮している。組織の見直し、事業の合理化にとどまらず、複数の学会の統合さえも論じられる昨今である。会員減少の直接的理由は、当該分野の研究者と技術者の数の減少、学会の魅力の低下であろう。この状況はどの学会でも将来にわたって打開するのが厳しいと認識されていると思う。しかし、私たちの日本農作業学会には、いま、会の裾野を広げる二つの好機が到来したのではないだろうか。
状況1;九州大学大学院農学研究院では、昨秋、農学部卒業生を対象にして、現在の仕事や業務の見地から、あるいは社会人としての総合的見地から、農学部でこれから必要と考えられる授業科目は何かをアンケート調査した。回答の整理段階ではあるが、重要な科目として、農場実習、牧場実習が飛び抜けて高い評価にあるとのことである。大学において、その教育研究を担うのは附属農場やフィールド科学教育センターと所属教員であろう。これらの実習教育の要は、栽培、飼養、機械作業などの農作業である。それでは、縦横に支援できる、あるいは先導することができる学会はどこかというと、まず本会であろう。当然ながら本会の果たすべき役割が極めて大きいと期待される。つまり、本会は学生教育に積極的に対応することによって、若い世代を本会に引きつけることができるのである。
状況2;いよいよ、日本の社会では団塊の世代の大量退職が始まった。多くの人が今の仕事の継続や再就職を望むが、農業にかかわりたいという意向で実現を模索する人もたいへん多い。東北地方のF市の調査では、団塊の世代の約半数が「農業をやりたい」、約8割が「農業に関心がある」ことを示している。本格的就農、家庭菜園作り、地域コミュニケーションとしての園芸、農業教育ボランティア、健康保持、セラピーなど、団塊世代のかかわり方の程度は多様であろう。では、基本となる考え方、栽培飼養技術、農作業、運営方法などを学術、科学技術の両面からどこが先導的に支援することができるだろうか。ここにも本会の果たすべき役割があると思う。積極的にアピールして、団塊の世代を本会に引きつけることができるのではないだろうか。
本会の目的は、農作業合理化の研究を進め、その技術普及と会員相互の親睦、協力を図ること(会則第2条)で、この目的を達成するため、5つの事業を行うことを掲げている(会則第6条)。本会の任務はまず研究活動にあろうが、教育、啓蒙、普及、社会連携、標準化などの活動などにも大きな社会的使命をもっている。本会の性格を的確に表すキャッチフレーズ「日本農作業学会は豊かでチャーミングな農業と農村の実現に貢献します」は美しい響きをもって会員の勧誘に役立ってきた。いま、組織をあげて、二つの世代を引きつけるためにチャーミングな対応を早急に検討すべきであろう。まさに好機到来である。
No.38 公設試験研究機関から見た学会
東北支部長 太田 義信
これまで長年にわたり岩手大学において農業機械系の学会活動に携わってきましたが、2年ほど前に岩手県農業研究センターという県の試験研究機関に勤めることになりました。
これまでの研究の取り組みは、イチゴの作業体系や牧草作業体系など地域にある素材を用いて研究を進め、学会誌等に発表すれば終了とするパターンでありました。どちらかといえば、川上からわずかな断片の知見を流しているようなものであり、それをどのように利用するかは川下の方で考えてもらいたいというスタンスでありました。
さて今度は、川下に立って農家サイドに近い視点で農業技術を見ると、断片を集めただけの新技術ではものにならない。やはり各種の技術を組み合わせた総合的な体系を構築し、実際にその作業能率や収量増を確かめて収益増に繋がらないと新技術体系の導入は難しい。この最新技術の体系化についての咀嚼と熟成、そして農家サイドへの普及に向けた中間媒体として、都道府県の公設試験研究機関が存在していると考えられます。
平成19年度から国の政策として、農業担い手の育成や集落営農への支援策が打ち出されており、如何に多くの足腰の強い意欲的なプロ農家を育成するかが各県に問われております。
また、外部からの機関評価においては、県の農業産出額に対する試験研究機関の予算額なども問われるようになりました。農業系試験研究機関はまさに「産業としての農業」に貢献することが求められ、行政側から期待されているといっても過言ではありません。
ひるがえって各種学会活動を見渡せば、農業技術の総合化や生産現場の問題解決に取り組んでいる農作業学会は、農家サイドという広い裾野から研究成果を期待され頼りにされる学会として発展してほしいと願っております。
No.37 平成18年度日本農作業学会秋季大会の感想
-リフレッシュできた2日間-
活動推進委員長 森泉 昭治
秋季大会参加のため去る10月5日午前10時半頃に上野駅で山手線に乗車し、久しぶりに通勤ラッシュを経験した。電車の乗降はまさに激しい肉体労働と同じであり、地方暮らしの私にとっては都会人の大変さを思い知った。
1日目は小雨の中の見学会であったが、その内容が良かったので雨が全く苦にならなかった。大阪府立食とみどりの総合技術センターでは、セラピーブドウの可動棚栽培や回転棚栽培試験農園、福祉的果樹栽培法の開発現場、障害者の水耕体験施設などを見学したが、ここでは農業の持つ多面的機能を有効利用する方法を開発し、人々にその成果を還元しようとする研究者の熱意が伝わってきました。また、「園芸セラピー(療法)」より幅広い「園芸福祉」という概念でバリアフリー・ユニバーサルデザイン化に取り組んでいるとのことも、なるほどと納得できた。ブドウの可動棚栽培や回転棚栽培試験(右写真)なども非常に興味が持てる内容でした。これなどは都会での狭い庭やベランダもブドウ栽培を楽しめることになり商業的にも成立するのではないか、さらにこの発想を他へ応用すれば、家庭での食農教育に役立つのではないかなどと思いながら見学していました。
この後に羽曳野市の傾斜地におけるぶどう栽培地帯を見学したが、就農者の高齢化に伴い灌木の合間にぶどう棚がみられる放棄地や波状型ハウスのビニールがはがされていないぶどう園などが散見された。傾斜地という自然のバリアに対し、どのように作業をユニバーサルデザイン化すればよいのか、施設内や平地での農作業と違った視点・発想のポイントは何かなどを考えながら説明者の話を聞いていた。そのためか、高齢のためか、説明者の話が殆ど頭に入っていないことが、後になって分かった。
私にとって2日目の研究会における最大の収穫は、バリアフリーとユニバーサルデザインという用語の概念が、今まで以上により明確化できたことでした。農業を魅力ある産業とするためには、経営面とユニバーサルデザイン化が車の両輪と思われます。また、大豆播種技術(密播・無培土の大豆不耕起栽培システム)の課題も現場に密着した講演者のお話でしたので、大変分かりやすく有意義な研究会と思われました。
最近、教育・研究以外の業務に追われているせいか、帰路の新幹線車中においてすがすがしい気分となり、秋季大会の2日間でリフレッシュした感じがしました。最後になりましたが秋季大会の実行委員の方々に感謝申し上げます。
No.36 日本農作業学会平成18年度秋季大会(大阪)に参加して
会 長 坂井 直樹
「農作業のバリアフリー・ユニバーサルデザイン化技術」及び「大豆の播種作業技術の課題」という時宜を得たテーマが設定された日本農作業学会平成18年度秋季大会は、北日本地域が低気圧の猛威にさらされ始めたとき、小雨模様の中でスタートしました。本大会は、日本農作業学会と近畿中国四国地域農業試験研究推進会議農業環境工学推進部会問題別研究会との共催で行われました。10月5日(木)13:00にJR新大阪駅前を出発したバスは、まずは高速道路を通って奈良県境に近い羽曳野市にある「大阪府立食とみどりの総合技術センター」を見学しました。そこでは「園芸福祉」を中心とするさまざまな試みを拝見しました。大阪は、ブドウとくにデラウェアの有力産地であることを知り、周辺農家の傾斜地に設けられた簡易な伝統的被覆様式の説明を受けました。現地産のブドウで作られるワイン工房の見学もありました。ここでは予期せぬことに、ちょうどNHKテレビの収録が行われている最中で、われわれもエキストラ参加を余儀なくされました。後日、近畿圏で放映されるとのことでした。大阪市内に帰着後、懇親会が行われました。
翌6日(金)は天王寺東映ホテルを会場に9:00からシンポジウムが開かれました。加茂幹男氏(近中四農業研究センター)を座長として、山下仁氏(農村工学研究所)、池田英男氏(大阪府立大学)、豊原憲子氏(大阪府立食とみどりの総合技術センター)による最近の話題に関する講演のあと、総合討論がもたれました。続いて、座長を伊吹俊彦氏(近中四農業研究センター)に交代して、百合野善久氏(三菱農機株式会社)による講演のあと、府県の事例報告がなされました。予定時間を越える12:20に終了しました。
参加者は65名を数え、とても盛会でした。なによりも今後の農業が目指すべき方向などについてのヒントや問題点がさまざまに見え隠れしていた有意義な大会でした。改めて、実行委員会ならびに関係各位に対してお礼を申し上げます。
No.35 学術会議シンポジウム
「災害社会環境の中での安心・安全と癒し」の概要報告
評議員 石川 文武
日本学術会議農学合同委員会では、第19期(前期)の「食の安全・安心」に引き続き、第20期に入り「各種災害が頻発する社会、災害環境の 中での安心・安全と出口となる精神的癒し」を課題として取り上げた。
まず、山と海の環境保全として、①山地・森林における災害の軽減による安心・安全及び②海の安 心・安全を目的に貝が持つ環境指標(貝言葉)を取り上げ、次に③自然・人工災害の軽減と防止から渇水対策の人工降雨による安心・安全を、さらに、④農業機 械が農具から大型・複雑・精密化へと発展した状況下での、高齢者の事故頻発、労働災害に対する安心・安全を取り上げ、最後に⑤政治・経済・国際問題が引き 起こす社会不安・病んだ社会の中での人間性の回復を目指して、いにしえからの日本庭園・盆栽・造園による癒し、を取り上げ、科学の発展・啓発目的と科学離れ解消もこめて、シンポジウムを開催した。
シンポジウム参集者は地元福岡を中心に北海道から九州まで約200名であった。以下に各話題の概要を報告する。
①山地・森林災害の軽減と安心・安全:
福岡工業大学教授(九州大学名誉教授) 小川 滋氏
山地・森林を発生源とする主な災害として洪水・土砂災害がある。戦後しばらくは年間1000人超規模の死者・行方不明者があったが、最近は100人以下程度まで減少しており、各種防災技術・事業の発展に負うところが多い。しかし、災害がゼロになることはなく、新たな災害軽減方策を考える時期になっている。 このシンポジウムでは、斜面の土砂災害軽減について動向が報告された。
降雨による土砂災害は、地震災害と異なり予測可能であること。したがって災害回避は不可能ではない。降雨の予測とそれに伴う地滑りや土石流といったハード要因と、生活者側の警戒・避難といったソフト要因のバランスが大切であり、最終的に人的被害を回避できるかどうかは、現場で生活している者の警戒・避難で ある。
気象情報を用いた警戒・避難システムを活用・成功させた事例も多くなっている。また、流域圏の生活者を対象とした総合土砂災害警戒・避難システムも活用事例がある。後者のシステムについては、1)平常時に流域の自然環境や土砂災害現象を知識として習得する「知災」、2)災害発生前に防災体制の準備・構築を 行う「防災」、3)災害発生後に状況把握、避難誘導、救援要請、安否確認などを行う「減災」を基本として行動すべきである。
各種の技術や施策が取り組まれているが、究極的には、各種情報を的確に判断し、行動するのは現地の生活者である。つまり、生の自然を知り、自然とともに生活し、社会的生活集団としての防災システムを自らが作り上げる心かまえが重要である。
②安心・安全な貝類養殖を貝(バイ)リンガルで:
九州大学大学院農学研究院教授 本城 凡夫氏
沿岸海域における赤潮、貧酸素水塊、または貝自体の病気などにより、貝類漁業は不安定な経営が続いている。貝からの悲鳴に近い信号を早期に把握できれば、 環境異変を察知でき、災害を少なくすることが可能である。このような観点から、二枚の殻のそれぞれにセンサーと小型磁石を接着剤で固定し、殻の開閉により 生じる磁力の変化を電気信号に変換し、いかだの上の信号処理装置に記録・分析することで、「貝リンガル」を捉える技術が開発された。その結果、環境異変時 には通常よりも頻繁な激しい開閉運動(貝の悲鳴)のあることが確認できた。貝の種類により、「貝話」が異なることも判明し、「貝話辞典」を編集して世界中の海の環境異変を早急に捉え、必要な情報を関係者に伝達できる日が近いと考えている。
③旱魃・渇水の中での人工降雨法による安心・安全:
九州大学大学院農学研究院教授 真木 太一氏
旱魃・渇水に対しては、雨乞いのようなあまり科学的ではない手法から、地上あるいは空中からヨウ化銀やドライアイスを散布する手法が主流であった。しか し、水資源となるほどの効果は発揮されていない。演者らは液体炭酸を空中散布する技法に挑戦している。これは、発達中の積雲の下部に-90℃の液体炭酸を散布すると、周辺空気が急冷する効果で人工氷晶が発生し、やがて重くなり落下しはじめ降雨となる。散布対象となる積雲の発達予想、散布用航空機の運用、など実験困難な条件があるが、効果は確認できている。新しい技術であるため、より一般的な技術として認知されにくいが、渇水が起こらない安心・安全のための新技術として普及させたい。
④農業機械による労働災害の中での安心・安全:
(社)日本農業機械化協会調査部長 石川 文武
農業機械抜きで作業技術を語れない時代となっている。昭和40年代からの農業機械化は、軽労働化、高性能化、などのプラスの効果をもたらしたが、反面として、農作業災害の増加という負の面も増大している。農業機械化の良い面を推進しつつ、農作業事故を減少させるためにさまざまな取り組みが行われている。本シンポでは、負の面の実情を披露しても解決策にはつながりにくいと考え、農業機械化グループが農業者の安全・安心・快適化に向けてどのような取り組みをしているかについて、2005農業機械化現地フォーラムの資料をベースとして紹介した。
⑤安全・安心の環境デザイン:
東京農業大学地域環境科学部教授 進士 五十八氏
①から④の話題は生活現場での安心・安全についてであるが、この演題では、景観などから、心の癒しを得ることによって、生活の安心につなげられればと考えている。すなわち、ランドスケープの計画技術は3つのレベル(Landscape Planning, Site Planning, Landscape Design)を満足し、併せてどのレベルにあっても「生命保全を第一目的」として安定性と持続性を担保しなければならない、のである。それぞれを環境レベルと空間レベルの面から満たすような景観を作出・維持しなければならない。
それぞれの演題について、熱心な意見交換がなされた。世の中が若干荒れている中で、国民生活の安心・安全のために数多くの視点があることを再確認した。特に農学分野でも働きかけの対象がとても広くかつ有用な研究が行われていることは、農業機械・人間工学分野という井戸の中で生活してきた筆者にとっては新鮮 と感じられる部分もあった。
No.34 われわれが主体的・先導的になさねばならないことへの示唆
会 長 坂井 直樹
先日、岩波書店から刊行されている雑誌「科学8月号」の中で面白い記事を見つけました。著者は黒川利明氏(科学 76(8); 761-764 (2006))という方で、コンピュータ科学のつぎの目標は「サービス科学」だという動向を紹介したものでした。IBMでも重要な次世代事業目標に設定しているとのことでした。
コンピュータ科学や経営科学、組織学などのサービスに関する科学の融合であるという説明があるだけで、まだ方法論や対象を含めて詳細はこれからだそうです。これではよくわからないので少しだけ補足が示されています。すなわち「サービス科学を構成する中身としては、Service Science, Management, and Engineeringを挙げることができるが、サービス=顧客価値増大はモノとして捉えられないためにコンピュータ科学のように対象がはっきりしていないのが現状である」とやはり漠然としたままのようです。
私がなぜ面白いと感じたのか。それは、黒川氏と同様に、モノとして捉えるのが難しいサービスを人の観点で捉えようとするアプローチが大変興味深いと感じたことによります。最近話題になることの多い「イノベーション」の推進力も結局は人だという経験的事実も黒川氏が指摘するところのようです。人とソフトウェア重視のわれわれ日本農作業学会の立場とどこか似ていると思いませんか。
本学会が担うべき研究としては、車の片輪ともいえる「個別技術の開発」とともに、もう一方の片輪である「作物(家畜)-機械(施設)-人-環境」というダイナミックなシステムとしての総合化が次世代に必要な学問として同様に要請されていることが思い起こされます。本学会の40年という歴史の中で必ずしも十分な成果を挙げることができず、多くの部分が次世代に申し送られてきた「総合化」や「システム化」ということに対して、われわれの代になってどの程度時代の要請に応えることができたのだろうか。牽引すべき立場にあるものの一人として正直忸怩たるものがあります。
明治維新草創期に来日したベルツ氏が述べたとされる言葉「日本人は欧米人の直接的な成果だけを受け取ろうとして、これらの成果をもたらした精神を学ぼうとしない」に表されるように、本質的なことや独創的なことは日本人には不向きなのだろうか。われわれをとりまく問題がますます複雑化・深刻化している中で本学会に課せられた仕事(本学会しかできないともいえる)はあまりに多いと感じるこのごろです。
No.33 茨城大学大会に寄せて
会 長 坂井 直樹
平成18年3月29日~30日の両日、平成18年度日本農作業学会春季大会が茨城大学 農学部を会場に開催されました。大会運営委員会は茨城・宇都宮の両大学合同で組織され、会場は茨城大学阿見キャンパスという変形版でした。
1年前の岩手大会は北国らしい雪混じりの天候での開催でしたが、それに比べると今回は打って変わって春らしい天候での開催となりました。しかし、学内に100余種あるという桜の開花も足踏みを余儀なくされているようで、晴れてはいましたが気温はかなり低い状態でした。茨城大学阿見キャンパスは農学部だけが占めており、こじんまりまとまった清潔なキャンパスが印象的でした。
今大会の講演数は、一般講演が82課題、これにテーマセッションの4課題が加わり、全体として昨年同様かなり盛況といえるものでした。一般講演は、正鵠を射たプログラムとして工夫されていました。総会に続いて持たれた会員・企画委員会共同提案のテーマセッション(テーマはサスティナビリティ・サイエンスと農作業研究、総合司会は堀尾尚志副会長と小松崎将一会員)では、用意された2時間の持ち時間はあっという間に過ぎ去り、総合討論が尻切れトンボになってしまうという少々残念な結果となりました。参加者の関心の高さなどを考えると、ぜひ再度(あるいは続編)の機会を持てたらと願わずにはいられませんでした。
もう一つ残念なことでは、今回は学術賞や奨励賞の受賞がありませんでした。会員のみなさまのご推薦によって次回はたくさんの応募が欲しいところです。さらには、昨年も同様のことを書きましたが、講演した内容を論文投稿までもっていって欲しいと願うことです。論文となってはじめて研究は社会的認知を受けると確信するからです。
森泉昭治大会運営委員長や竹永博副委員長を始め、茨城・宇都宮両大学の運営スタッフ、会場を快く提供してくださった茨城大学、さらには講演や討論に積極的に参加してくださった会員のみなさまに心からお礼を申し上げます。来年の春季大会は、東京農工大学での開催が計画されています。お互いに日ごろの研究成果を持ち寄って熱い議論をしましょう。再会を楽しみしています。
No.32 日本農作業学会平成17年度秋季大会(宮崎)に参加して
会 長 坂井 直樹
平成17年10月20日(木)~21日(金)の両日、宮崎県都城市周辺を会場に平成17年度秋季大会が開催されました。前日まで、関東地方は台風の接近で本当に飛行機が飛ぶのかどうかやきもきしていました。こんな心配をよそに、秋季大会の2日間、宮崎は雨とは無縁でした。時節柄お忙しい中にもかかわらず、会員各位の努力のおかげで参加人数も52人を数えました。私も、一人の会員として南九州の秋晴れの空気を存分に吸ってきました。
ご承知のように、南九州はシラス台地の上で営まれる畑作や畜産、園芸作を抱えるわが国有数の農業地域です。ご多分にもれず、当地でも農業従事者の減少や高齢化、耕作放棄農地の増加などの問題がある中で、秋季大会は、生き生きとした大規模農業生産法人の活躍ぶりが見聞できることを主眼としたシンポジウムと現地見学会で構成されていました。
初日は15:00から都城グリーンホテルを会場にシンポジウムがもたれ、3課題の講演および総合討論がなされました。実行委員長でもある大塚寛治氏による南九州農業の概要説明の後、農業生産法人代表のお二方(新福秀秋氏と井上芳男氏)のお話があり、自らの事業に自信満々という姿勢が強く印象に残りました。
翌日は、朝9:00から合計5個所の見学に出かけ、宮崎空港に送迎していただいたのが17:30過ぎという強行軍でした。見学内容はいずれも興味あるものばかりで、今後のわが国農業を考えていく上で大いに参考になりました。特産の霧島産サトイモやゴボウについては、国内はもとより一部は外国へも輸出されていると聞いて驚きました。
疲れましたが本当に勉強になった2日間でした。恐らく、詳細な報告は大会実行委員会から後日なされるものと思います。大会実行委員会を構成してくださった九州沖縄農業研究センター畑作研究部や宮崎大学農学部、九州大学農学部、宮崎県総合農業試験場生産流通部のスタッフには本当にお世話になりました。
No.31 OBの方々にも来ていただける大会にするには
会 長 坂井 直樹
私たちの日本農作業学会は、幸いに創立40周年を迎えることができました。この間、時代や技術の進歩に合わせるように、研究の対象や手法も多様化・高度化してきました。最近では、春季大会を開催するたびに、講演題数の記録を着実に更新しているようです。
このこと自体は、もちろんうれしいことです。一方で、ときどき考えることですが、かつて、学会のあり方について、あるいは研究をめぐって、激論を飛ばしてくださった方や、後進に対して愛情ある苦言を呈してくださった方が、春秋の大会に顔をお見せにならなくなったような気がいたします。名誉会員や常連であった先輩など、どうしているのでしょうか。なんとなく参加しにくい雰囲気があるのでしょうか、あるいは世代交代というクールな現実なのでしょうか。このことは単に寂しいというだけでなく、自分とは多少異なる分野に対しても堂々と自説を述べる先輩のかつての姿勢をみて、どれほど多くのことを学ばせていただいたことか思い起こされます。
ある意味では矛盾していることかもしれませんが、健康や距離的な理由以外に、もしも出席しにくい雰囲気が最近の講演内容にあるのでしたら、私が書いているお誘いのこの文章は、インターネットでアクセスする学会のHPではなく、学会誌での活字の方がふさわしいのかも知れません。いずれにいたしましても、私のこの文章をご覧になった現職の会員には、まことに恐縮ですが、機会をみつけてそれぞれお知り合いのOBの方々を春秋の大会にお誘いしていただけませんでしょうか。これからの学会の健全な発展と文化の継承のために必要なことと考えます。
平成17年10月20日(木)~21日(金)には、宮崎県都城市周辺を会場として、本学会の平成17年度秋季大会が開催されます。会員の皆様はもちろんのこと、OBの方々のなつかしいお顔を拝見することができたらどんなにうれしいでしょうか。それには、これまで以上に魅力的な学会にするよう努力していくことと、多くの先輩方の助言などに対して聞く耳をもった会員でいることが必要であるのはいうまでもありません。
No.30 一冊の本の薦め
会 長 坂井 直樹
最近、私は書店で偶然に見つけた一冊の本をじっくりと読みました。それは「持続不可能性-環境保全のための複雑系理論入門、Simon A. Levin著(原著:Perseus Books 1999)、重定南奈子/高須夫悟訳、文一総合出版、東京、2003」というものです。本書からは、私なりに思考を整理する上でさまざまな示唆を受けることができました。私たち日本農作業学会員の多くは、日ごろ耕地生態系(管理生態系)にもっぱらの関心があり、これに比べて自然生態系への関心はやや希薄といってよいのではないでしょうか。しかし、地球や人類の未来を視野に入れたダイナミックかつ総合的な仕事をしたいと考える人にとって本書が諸点でヒントを与えてくれるのではと感じました。
本書には、複雑適応系、エコシステム、生物多様性、進化、利他行動、自己組織化、恒常性維持、環境変動、冗長性、べき乗則、偶然性、遷移、適応地形図、競争のダイナミクス、最適化、復元性、キーストーン種、モジュール構造などの用語が出てきます。訳のうまさもあって論旨は明快です。例えば、「複雑適応系(Complex adaptive system)」の本質的特徴としては、1.構成要素の多様性および独自性、2.構成要素間の局所的な相互作用、3.自立的過程などが挙げられています。地球生態系も該当する複雑適応系の鍵となる要素(Key factors)としては、1.不均一性、2.非線形性、3.階層的組織化、4.流れなどが挙げられています。
うまい表現だなと感心したのは(以下、引用)、「もしかすると自然はそれほど脆弱ではないのかもしれない。自然はわれわれの存続を許してはいるが、それを許すために存在しているのではない。したがって、われわれは自然がどれだけ脆弱であるかということだけでなく、自然のもたらすサービスがどれだけ脆弱な基盤の上に構築されているかを問うべきである」という記述です。また、「なぜここに生物が生息しているのかという謎を理解することは、生態学の中でももっとも刺激的かつ興味を引く作業である。これこそ生態学の中心課題であるといっても過言ではない」とも書かれています。このほかに、「多様性が高まることは、複雑性と冗長性が高まることと考えて良い。そして、系の総生産性や安定性、環境ストレスに対する復元性などとも深く関係する。多様性はまた、土壌中の有機物質量など、系の機能に欠かせない重要な生物化学的性質にさまざまな影響を及ぼすことが知られている」とも書かれています。すべてに触れることができませんが、総合科学的思考に刺激を与えるための一助になればと、ここにご一読をお薦めする次第です。
No.29 北国の春を実感した岩手大会
会 長 坂井 直樹
平成17年3月28日~29日の両日、平成17年度日本農作業学会春季大会が岩手大学 農学部で開催されました。
1年前の日本大学 生物資源科学部・短期大学部における春季大会は桜の花びらが舞い散る中での開催でしたが、今大会は北国らしい雪混じりの天気のもとでの開催となりました。外は冷え込んでいても建物内には暖房が入っており、大会そのものは快適な環境のもとで行われました。
今大会は、講演課題数が84と史上最多を誇り、これ以外にテーマセッションにおける講演が加わり賑やかな大会となりました。総会に引き続いて行われた表彰式では2件の学術奨励賞(① 前川寛之氏、②長﨑裕司・川嶋浩樹氏)を授与することができました。今後の研究の更なる発展を期待しています。共通テーマを「水田を活用した耕畜連携への取組みと農作業研究」と題したテーマセッションでは、時宜にかなった課題の下で、最近の動向を中心に4件の話題提供とコメントがなされました。その結果、可能性とともにさまざまな問題点が浮き彫りになりました。しかし、離れた懇親会会場への移動時間が迫っていることから総合討論を打ち切らざるをえず、せっかくのタイムリーな企画も最後は少々残念な結末となりました。またの機会に取り上げることのできるテーマでもありますので、継続審議とさせていただきましょう。
84件の講演課題数を筆頭者の所属別に分けてみると、大学関係が24件、国の独立行政法人関係が41件、県関係が19件という内訳でした。欲をいえば、大学関係にいま少しがんばって欲しいなというのが私の率直な感想です。さらに言わせていただければ、講演した内容をぜひ農作業研究誌に原著論文として投稿してくださるようお願いいたします。研究の一応の完成は、論文に仕上げることですので。いずれの研究も大切な宝物に思われます。
太田義信先生をはじめ大会運営委員会には本当にお世話になりました。心温まるおもてなしに参加者は喜んでそれぞれお帰りになったことと拝察いたします。改めて関係機関およびスタッフにお礼を申し上げます。
No.28 新技術の受容をめぐって -東北タイの農村にて
副会長 堀尾 尚志
東北タイの農村に足を踏み入れるようになった。東北タイの中心地、コンケーンに隣接するマハサラカンという県にある農村で、車で1時間半ほどの距離にある。京大東南アジア研究所の定点調査で知られたドンデーン村の南10kmあたり、丘陵地帯の中にある。古くからある村から分村してできた比較的新しい60戸ほどの村である。当学会の会員である筑波大学の小池先生が代表をしている科研による調査で、メンバーがいろいろな角度から、そこでの機械化のコンセプトや農作業の展開を分析しようという計画である。
右の写真は昨年の初めに予備調査で入ったときのもので、ためしに聞き取りに入っていくところである。15年前に比べると、このような立派な家も増えたものだと思っていたが、村内を歩くと昔ながらの粗末な家も散見される。市場の動きに対応してきた家とそうでない家、創意と工夫とやる気の差の結果であろうか。聞き取りから、そのような見当がついた。
その「対応」は、キャッサバからサトウキビへの転換であった。その転換にいちはやく取り組んだ者、転換の有利性を理解しながらも対応するに躊躇した者、そして転換に関心が薄かったがまわりが転換したもので追従した者、そうした普及過程があったのではないか、という作業仮説にたって、秋に再び出かけ調査を実施した。調査を実施、などといえば聞こえはいいが、アルバイトのコンケーン大学の学生さんに通訳をしてもらっての聞き取りである。タイ語を喋れない、調査といえない調査である。用意していった調査表にそって学生さんにサポートしてもらうという、情けない聞き取りである。
情けない聞き取りであったが、予想通りの結果が得られた。というよりは、情けなくない聞き取りでも同様の結果は得られる。新技術の普及過程は、だいたいそののようなもので、アメリカの農村社会学者E・M・ロジャースが「技術革新の普及過程」で述べているような特性をもっている。問題は、普及過程を個々のケースに即して、この場合であればキャッサバからサトウキビへの転換を、どこまで具体的に分析できるかである。ただ数字を羅列するとか出来事を時系列的に並べただけの「分析」でなく、普及の現場における事象そのものの分析である。私が注目したいのは、農業の経営主体は個人であるから、経営主体個々人のメンタリティーである。メンタリティーの違いが普及過程の特性を結果している。メンタリティーはいたって抽象的な概念と思われがちであるが、個々の技術に具体的に即してみれば必ずしもそうでない。この「転換」に即して尋ねれば、タイ語が喋れない情けない調査といえども、新技術の受容者の意識構造に立ち入れないことはないのである。
昭和40年代前半における田植機の普及過程において、「田植際導入せねばならないと分かっていてもなかなか踏み切れなかった」という意識に対し、私は「メンタル・インピーダンス」という概念を提起し分析した(岩波講座「現代思想」第13巻所収「新技術の受容と意識の構造」)。しかし、概念を提起しただけで10年も経ってしまった。
東北タイで、それをもう一度思い出しながら、新技術の受容に伴う苦痛や苦労を和らげるプログラムつくりに、その概念の実用を考えたいと思っている。
No.27 新しい年を迎えて
会 長 坂井 直樹
新年明けましておめでとうございます。日本農作業学会は、昭和40年9月の設立総会および記念講演会を起点とすれば、2005(平成17)年に創立40周年を迎えることになります。私が学会長を拝命して、早いもので9ヶ月が過ぎました。常任幹事会における審議や報告事項などについては、概要は学会誌の本会記事に掲載されていますが、情報を巡る環境の変化とともに、学会として対応が迫られる時間が確実に短くなっているなと感じます。かつての古き良き時代を懐かしむ間もなく、つぎの世代に良質な資産を継承することの責任の重さを痛感させられるこの頃です。
さて2005(平成17)年度は、すでに学会ホームページに掲載されていますように、2件の学術奨励賞の授与が決まりました。うれしいことです。組織活性化委員会の名称や編集委員会の投稿規程などについては改定を前提とした検討がなされています。学術用語集については近々の発行を目指して作業が進んでいます。本学会も参画している日本学術会議が大きく変わろうとしています。このことがもたらす影響は小さくありません。本学会の2005(平成17)年度春季大会が、3月28日(月)~29日(火)に岩手大学 農学部で開催されます。最新の研究成果を持ち寄って大いに議論しましょう。改めてご案内いたしますが、5月13日(金)には日本農業工学会シンポジウムが本学会の当番で開催されます。時代の求めに応じた内容と講演者布陣であると自負しています。多数のご参加をお待ちしております(会場は農業土木会館)。また2005(平成17)年度本学会秋季大会については、南九州を会場に予定して、企画委員会と現地との間で現在具体化を進めている状況です。
2005(平成17)年度もさまざまな活動が計画されています。会員になって良かったといわれるような学会にしていくことをこころから願っています。皆様のご健康とお仕事の発展を祈念するとともに、本年も変わることない日本農作業学会への多大な関心とご協力をお願い申し上げます。
No.26 インドネシア国際農作業研究セミナーを終えて
セミナー担当事務局(副会長) 森泉 昭治
本学会の第3回海外セミナーは、去る8月23日~30日の日程で無事終了しました。本セミナーの事務局(茨城大学 森泉・小松崎)を担当した一人として、若干の所感を述べてみたいと思います。
まず、本学会の海外セミナーの特長は何かと言えば、①現場の視察を中心にしていることです。これは本学会の目的からして当然でしょうが、一般の発表中心の国際学会では得られない利点と考えられます。そして、②参加者が14~17名と小人数のため、家族的雰囲気で過ごせることも大きな利点と思われます。1回参加すると、初めて出会った人も帰国時点では10年来の友人のように感じられます。そのためか今回の参加者をみると、3回とも海外セミナーに参加した人が3名、2回参加した人が6名と常連が多くなっています。また、今回の海外セミナーにより会員が1名(大学技術職員)増加という嬉しいこともありました。反省点としては、現場の視察が多いことからして、会員の中でも農業現場に近い人を積極的に勧誘すべきであったと思っています。次回の海外セミナーでは、もう少し広報方法や勧誘方法を工夫した方がよいと考えられます。
24日の午前中はボゴール農科大学で扇形・階段状の立派な会場において、ジョイント・セミナーが開催されました。カマルディン教授(セミナー運営委員長)の話によるとJICAの援助もあり、この会議場ができたとのことでした。また、前日の視察先の農業機械研究・開発センターでもJICAの援助で納入された計測機器が多くあるとの話を聞いておりましたので、何となくインドネシア側の親日的態度を感じました。本セミナーでは日本側の代表として、九州大学の中司先生が「The Proposal on the Construction of the Multilingual Collaboration System for Japanese, Korean and Indonesian Farmers 」と題して、また近畿中国四国農業研究センターの藤原先生が「Efficient Machine-Cultivation of Vegetables in Japan」と題して講演を行いました。午後は主にボゴール農科大学の3農場(園芸、畜産、機械農場)を見学しましたが、園芸農場と畜産農場では日本に留学経験のある先生が説明をしてくれました。また、農業工学部長、運営委員の半数弱が日本への留学をしているとの話を聞き驚きました。ボゴール農科大学のこれらのメンバーと当学会で共同研究することも、学会の活性化に連なり、また国際貢献にもなるのではと思われます。
製茶(紅茶)工場と茶畑は標高で約1000m付近の高地にあり、空気が清涼な感じでした。また、茶畑は山の傾斜地に造成されており、何百ha単位の壮大なものでした。茶摘みは手摘みと長柄ハサミで女性が行っておりましたが、大変な仕事だろうと思われます。現時点での機械化は労働者の仕事を奪ってしまうので無理でしょうが、将来、日本製の茶摘み機械が役立つこともあるだろうと想像しました。
茶畑見学の後にシアンジュールの野菜関係の集荷組合と栽培圃場の見学を行いました。ここも高地の傾斜地にあり、日本での高原野菜と同様に品質良好の野菜産地と思われます。圃場にはレタス、ホウレンソ草、キュウリなどが混作されており、豊富な労働力がなければ不可能な作付け方式です。天秤棒で野菜の運搬をしていましたが、段々畑の細い道を安定した歩行であり、我々にはとうていできない芸当と思われました。このようにインドネシアでは人力中心の農業ですので、日本のかつての農作業研究を応用すれば役立つことが多々あると感じました。近い将来にその時期が来るでしょうが、これは本学会の若手研究者に期待したいと思います。
西ジャワの稲作地帯の見学には、ポスト・ハーベスト研究・開発センターの研究者が数人同行してくれました。籾の乾燥施設を見学している時、先生はこの乾燥施設をどう思われますかと聞かれ一瞬とまどい、現状では天日乾燥で十分、普及は疑問と答えてしまいました。説明をしてくれた研究者は乾燥・調製施設関連の専門で得意げに話をしていましたが、私は年平均気温が約26℃のインドネシアで労力が十分にあるのだから高価な乾燥施設は時期早尚と思っていたためです。研究者は将来のための試行として乾燥施設をつくったこと、また雨季での籾乾燥の場合には品質向上になるので、利用料金によっては普及の可能性もありうることを後になって気が付きました。自分の思慮の浅さと勉強不足を痛感いたしました。
上記は主としてジョイント・セミナーと農業関連視察の所感ですが、以下では一般見学やCultural Nightなどについて、写真と共に一言紹介をしたいと思います。
●ボゴール植物園:約80haの熱帯植物園で壮大な景観です。
●プレジデント・パレス:一般的には建物内部の見学は不可とのことですが、ボゴール市長の配慮により見学できました。独立戦争の大絵画が印象に残りました。
●農業機械開発・研究センター見学後の昼食:この食堂では5本指での食事が通常ですが、私を含め何人かはフォークを借りてしまいました。
●Cultural Night:セミナー参加者との懇親会の予定でしたが、急遽ボゴール市主催の歓迎会となりました。これはボゴール農科大学のサム・ヘロディアン氏(東京農工大学連合大学院で博士号取得)の友人がボゴール市長であるためと思われます。
●ボゴール市内のホテルで夕食後の乾杯:ホテル外のディナーではアルコール類は出ませんので、ホテルに帰ってから必ず一杯ということになりました。
●バリ島での宿泊ホテル:世界の保養地らしく優雅なホテルでした。
●バリ島でのリスタフェルディナー:宣伝文句では王様気分でのディナーとのことです。しかし、胃腸の調子が悪く-------(?)。
●バリ島観光コースでのライステラスとキンタマーニ高原:美しい景観で見とれてしまいました。
本セミナーのインドネシア側担当者であるファイズ氏(ボゴール農科大学)は、小生の研究室(茨城大学)に6年間在籍していましたので、インドネシア農業はじめ諸現状については種々の話を聞いておりました。しかし、「百聞は一見にしかず」の諺の通り、実地見学がいかに有効であるかを実感させられた海外セミナーでした。なお、本セミナーの詳しい報告は学会誌に掲載する予定です。
No.25 2004年度秋季大会見学会所感
会 長 坂井 直樹
9月16日(木)~17日(金)の両日、日本農作業学会2004年度秋季大会が静岡県を会場に開催されました。シンポジウムを含めた詳しい報告は、恐らく後日、大会事務局から公式になされると思いますが、ここでは参加者の一人としてとくに初日の見学会で感じたことを述べさせていただきます。
見学会でまず案内された「ベビーリーフ栽培農場」(高橋農園、浜松市神原町)では、ベビーリーフという特定の作物でない作物横断的な発想とその生産方式に興味をもちました。収穫機も工夫されていました。つぎに案内された「フェンロー型温室」(内藤農園、引佐郡細江町)では大規模にメロンを生産していました。両施設ともに共通しているのは、今後産地として生き残っていくには規模の拡大が何よりも重要(これにはコストや自家労力の削減が含まれる)であり、基本的にいわゆる素人のパートタイマーの作業に依存した方式であることでした。当然、栽培のノウハウや生育データなどはコンピュータ管理されていました。そして、なによりも感心したのは販路を独自に開発しようとしている積極的な経営姿勢でした。メロンでは、大正時代からの長い歴史をもった静岡県の伝統的生産に象徴される職人技的方式に対して、コンピュータプログラムに基づいて均質化された製品を大量生産する方式を提案しています。フェンロー型という大規模化に適した新たな温室導入の必要性があったわけです。今後は、これらの生産方式が二極化(安くて均質で大量生産と高くて少量生産)していくのかなという感じを漠然ともちました。
「浜松ホトニクス中央研究所」(浜松市都田町)の見学では、農業がかなり熱い視線をもって重要な今後の柱にすえられていることを感じました。一例を挙げれば、ある意味ではわれわれ農業関係者とは発想を異にしている姿勢に興味をもちました。すなわち、光源にレーザ光を用いた水稲施設栽培では、概念的に現状の100倍増というレベルの単収を夢見ていることでした。もちろん単収の向上は、さまざまな要因が複雑に関係し、簡単ではないことは歴史が示すところです。私が驚いたのは、「100 倍増の単収」という目標設定に関してです。必ずしも栽培のプロでないからこそ思い切った発想が可能なのかもしれません。このほかにも、今後の農作業研究にとって参考となる基礎研究の一端をみせていただきました。
最後に案内されたのは、「はままつフルーツパーク」(浜松市都田町)でした。よく手入れの行き届いた果樹(基本的に食べられるもの)を分かりやすく一般の方々にみていただきたいという意図が充分に感じられる施設でした。
こころよく今回の見学先に開放してくださった関係者の方々とともに、今回の企画を現実のものとしてくださった実行委員会に改めてお礼を申し上げます。
No.24 より良い学会誌作りを目指して
編集委員長 世良田 和寛
学会誌「農作業研究」第39巻2号より、編集委員長を会長指命で前委員長森泉先生から引き継ぎを致しました。私は3年間勤めなければなりませんが、優秀な編集委員がおられるので、任務が果たせているのではないかと感謝している次第です。本報から、編集委員のメンバーは入れ替わり、約半数の新編集委員と、留任の先生方から今までの編集方針を基に新しい編集を考えて発行する希望を持っています。年4報の学会誌の内容充実には、多くの方に学会へ加入して頂き、会員から多くの投稿をお願いする次第です。興味のある会誌の発行を念頭において、掲載閲読のシステムを簡略化しています。
本学会発行の著書「農作業学」では作物栽培、家畜飼育、園芸、養鶏、林業などの培育から雑草、病虫害および生産基盤にかかわる農業施設、圃場整備、農業気象、土壌肥料並びに農業経営・経済、システム・情報処理、農村生活、医療・福祉などが述べられています。農作業学は広範囲の学問内容があますので、会員は前述の個々のテーマをもった研究者や技術者がおられ、諸領域と学際的に深い意味が認められています。したがって、研究対象も農業におけるエネルギーの流れや物質循環、農作業の効率化技術と評価、労働科学とエルゴノミクス、経営の効率性と評価、農作業に係わる計測などをテーマとしています。
農作業は現場に携わって、研究が成り立ちます。よって、多くの現場の技術が掲載される会誌にしなければなりません。広領域の会員が均等に所属していなければなりませんが、現在は農業機械や作物関係の会員が多く、上記の内容が本学会の特徴ですので、多分野の研究者や技術者のメンバー意見交流を持つことが寛容であると考えられます。論文以外に業績と扱われる報文などを今後検討して、多くの会員から原稿を投稿してもらえるような方法を進めることが寛容であると考えます。
私は、学会誌の発行はこれらの意見交流の場の一つとして考え、多くの会員の皆様方の投稿を待っていますので、現在行われていること誇りもって投稿されることを希望致します。会誌内容や編集などのご意見がありましたら、奮ってご連絡下さい。ご意見をお待ち致しております。
No.23 学会賞への積極的な応募を!
会 長 坂井 直樹
現在、本学会には二種類の学会賞が用意されています。会則第6条 (3)に記載されていますように、一つは学術賞であり、一つは奨励賞です。学術賞(制定当時は日本農作業学会賞と称し、この一種類だけでした)が制定され、初めて授与が実現したのは平成2年度のことでした。奨励賞については、遅れて平成4年度の授与が最初でした。
日本農作業学会学術賞規程をみますと、「本学会は、農作業合理化に関する研究において優れた業績をあげた会員に対し、日本農作業学会学術賞を、また将来に期待がもてる優れた研究・技術開発を行っている会員に対し、日本農作業学会学術奨励賞を授与し、賞状および副賞をもってこれを表彰する。」と書かれています。改めていうまでもないことかもしれませんが、受賞されると、ご本人や組織の名誉となり、顕著な業績として諸点で有利に働くことは想像に難くありません。一人の会員としてみた場合、せっかく設けられている制度を活用しないのは明らかに宝の持ち腐れといえます。以下に、過去の受賞実績をみてみましょう。
●平成2年度:菅原清康・進藤 隆の両氏が「焼畑農法における作付体系とその成立要因に関する研究」で学会賞を初めて受賞●平成4年度:遠藤織太郎氏が「大規模酪農における電化機械化の効果に関する研究」で学会賞を、坂上 修氏が「野菜栽培における農作業合理化に関する研究」で奨励賞をそれぞれ受賞●平成6年度:坂井直樹が「不耕起栽培の評価に関する研究」で学会賞を受賞●平成8年度:北倉芳忠氏が「大区画埴土湿田における乾田直播作業体系」で学術奨励賞(名称変更後)を、小松崎将一氏が「畑作における麦類の自生作物化と作付体系に関する研究」で同賞を受賞 ●平成11年度:山下 淳氏が「飛び石事故防止のための固定刃付き刈払機に関する研究」で学術賞を受賞●平成13年度:宮崎昌宏氏が「傾斜地カンキツ園の歩行形機械化体系の開発と評価に関する研究」で学術賞を受賞●平成15年度:富樫辰志・下坪訓次の両氏が「水稲代かき同時打ち込み式点播機の開発」で学術賞を受賞しました。
会員である以上、だれもが推薦し、応募しうる資格を有します。賞の権威を保ちながら、応募しやすいシステムにしていくことも学会運営上は必要なことと考えます。学術賞や奨励賞は、学会の顔の一つです。受賞した業績をみれば、学会として考えていること、守備範囲や目指すべき方向、学術・技術レベルや社会的役割、成果などを比較的容易に知ることが可能です。応募があって、初めて選考委員会は動けます。選考委員会が候補者をリクルートすることはありえませんが、選考委員会がいつも開店休業状態にあることは、学会の不活性化につながり、決して良いことではありません。ぜひ、日頃の研究成果を改めてご検討いただいて、積極的に応募してくださるようお願いします。とくに若い研究者にとっては、おそらく遠慮やためらいがあるものと推察されますが、本人はもとより、周囲の方々が代わって刺激してくださるというちょっぴりの協力と勇気に期待しています。学会としては、後継となるべきよい研究者を育てていく必要があります。
ところで、この原稿を書きながら気づいたら、本年度募集の締め切り日(7月1日)をすでに過ぎておりました。たくさんの応募があるとよいのですが。万一、本年度の応募がなくても、次回に備えていまからしっかりと準備してくだされば幸いに存じます。
No.22 会長就任にあたって
会 長 坂井 直樹
講演に新方式を導入した、日本大学 生物資源科学部・短期大学部における平成16年度春季大会が桜の花の咲き誇る中で盛大に開かれました。塩谷前会長の後を受けて、図らずも、私は平成16~18年度期の会長に選出されました。いつの時代においても舵取りの難しさは同じなのかもしれませんが、科学技術の進歩や農業を取り巻く環境の変化などをみると、本学会は激変期にあるともいえます。
本学会は、「日本農作業研究会」として昭和40年(1965年)2月に発足しました。これには、当時パリに本部があった国際農業工学会(CIGR)からの要請を受けて、まず昭和39年6月に日本農業工学会が設立され、構成する農作業部門の受け皿となるべき学術団体が必要になった事情が挙げられます。
昭和40年9月には、東京西ヶ原の農林省農業技術研究所で約100名の参加者を得て、本研究会の第1回総会および記念講演会が開かれました。昭和50年3月には正会員だけで1,000名を超え、新たな研究分野の進展に期待する時代の熱い息吹が伝わってくるようでした。発足時の合言葉は「農作業の合理化」であり、これは現在も本学会の旗印として連綿と引き継がれています。CIGRからの要請に応じて、平成7年には第5部会へ理事を出すなど国際活動へのかかわりが強化されました。そして幾多の議論を経て、本研究会は昭和61年度春季大会において「日本農作業学会」に改組され、現在に至っています。
本学会は、「産業」としてだけでなく「文化」としての役割を合わせもつ日本農業の現状や将来に対して、強い関心を抱いています。むしろ一歩踏み込んで、「研究や社会的活動を通じて日本農業の発展に応分の役割と責任をもつ」と明確に述べたらいい過ぎになるのでしょうか。試みに、農業との関係が比較的密接な本学会の特徴を私なりに要約すると、「作業者の視点を重視して、生産活動の最適化を希求する唯一の農学関係の学会」となるのではないでしょうか。ここでいう「最適化」とはつねに不変ではなく、社会の要請や価値観の変化などによって変わりうる概念と考えます。本学会には、多くの近隣諸学会のように研究の出口として要素的あるいは解析的成果のみを競うのではなく、人間という複雑な対象を含めた真の総合的成果を世に問う姿勢、すなわち間口や奥行きの広さ、あるいは方法論の斬新さや柔軟さが求められると考えます。現場指向や技術重視なども本学会の特徴といえるでしょう。
一方、40年の歴史をもつ本学会が、これまでに要請されてきた社会的使命に十分応えてきたかどうかということについては、ある段階で点検してみる勇気が必要と考えます。その際、間口が広いといっても、守備範囲をある程度明確にしておくことが必要です。まだ試案の段階ですが、組織活性化委員会提案というかたちで部会制に関する議論を投げかけさせていただいています。ともかく、従来以上に多くの方々からさまざまなパワーを提供していただいて、より独創的かつ総合的な仕事のできる学会へと脱皮していく必要があります。
さらには、学問としての体系化を進めることもまた学会の使命です。みかけ上「農作業の合理化」という表現自体は変わらなくても、この言葉の意味するところや背景は時代とともに変化してきました。例えば、研究会発足時における「農作業の合理化」は当時問題になっていた重労働からの開放であり、機械化や化学化などによる生産性の向上でもあったわけです。細部は別にして、いまや当初の目的をある程度クリアしたと思われる昨今の農業方式が、高生産性を一層追求するがゆえに他方で地球レベルを含めた環境問題の原因となっている実態も知られています。そこでは、従来からの研究テーマに加えて、食のグローバル化や安全性、環境保全や持続性、地球環境問題、農業景観、農業セラピー、農業教育や普及といった本学会が担当するにふさわしい新分野が確実に存在していると考えます。
基本的に学会は出入り自由の組織です。個人にとってメリットがあり、同時に課せられた社会的使命をしっかりと遂行していく努力は当然です。前期執行部の仕事として、終身会員制度が提案され、学生会員制度も整備されました。今期執行部としては、定例の事業のほかに、「学術用語集」の刊行(新規)や「農作業便覧」の改訂(1988年刊行)、「農作業学」の改訂(1999年刊行)、海外セミナー、40周年記念事業などへの対応を考えています。
情報量が増えあらゆるシステムが複雑化している昨今、本学会の組織や運営も可能な範囲で効率化していくことが望まれます。新布陣となった今期執行部の活動を多少長い目でもって見守っていただくとともに、学会活動への会員各位のより積極的な参加・協力が賜われることを心から期待しています。